『ほどけゆくうれい』













じゃじゃーん。


 こちらの美麗絵は、犬かラヴァーであれば知らない方はまずいないであろう大御所サイト「瑠璃色回廊」の水沢珪さまから、180000HITキリ番作品として賜りました。
 実は馨が踏み抜いたのは2番違いの180002なのですが、何せ水沢さんの手から生み出される作品(こと、絵に関しては)には、犬夜叉にハマった当初からずうっと憧れておりまして。ですのでせっかくのキリ番が流れてしまうのがあまりにも惜しく、「180000の該当者の方の名乗り出がもし無いようでしたら、二アピン賞という形でリクエストさせていただけませんでしょうか…?」とずうずうしくも勇気をふり絞ってお願いをしたところ、快くお引き受けくださった、という経緯があったりします。
 あの節は本当にお世話になりました。そしてご承諾をいただけた時は天にも昇るように嬉しゅうございました…。



 そんな裏話はさておき、リクエストさせていただいたのが、なおみさんの「新月のまどろみ」にも置いていただいている駄文「初空に冴ゆ」の挿絵です。中でも特に物語の中盤、二人きりで互いの心情を告白する、ターニングポイントとも云えるこのシーンを指定させていただきました。勿論話の中で大事というだけでなく、文章、とくに描写的に気に入っている場面でもあります。

 昼間の薄曇りが嘘のような天気の、視界いっぱいに星の瞬きが広がる。いつもは煤に汚れたはずの空がどうしてか今日は透き通り、純絹【きぬ】のように滑らかに横たわっていた。
 身震いさえも億劫な鋭い寒さが、不思議に快い。吐息がほわりほわりと闇夜に優しく映えて、昂ぶった気分を鎮めながら霧散する。
 「どうして、今日は来るなっつったんだ」
 抑揚のない犬夜叉の物言いが、かごめの心をやけに刺した。どう足掻【あが】いた処で、ひたと据えられた琥珀色の眼に嘘などつけない自分を、彼女は知っている。知られたくないだとか、もうそういう事ではなくて。
 「…怖かったのよ」
 ぽつりと漏らされた台詞に、少年は聞きかえしそうになるのを踏みとどまる。語尾が微かに震えていたようで、それをする気にはなれなかったので。 
 「もしあんたがあたしを見て、桔梗だって思ったら…どうしようって」
 「俺のことを気遣ってくれたのか?」 
 思いがけない言葉に些か戸惑いながら訊くと、かごめは小さく俯【うつむ】いた。犬夜叉が華奢な肩を引き寄せてやると、少女は存外抵抗もせずそれを受け入れる。
 「――判らないの。あたしの所為で犬夜叉が桔梗を思い出して疵【きず】付くのは厭よ、本当にいや。でも多分…あたしも厭だったのよ。一瞬だって、桔梗と間違われたくなかったんだと思う」(本文より抜粋)


 ――えーと、まあ文章はともかくとして、ですね。(笑)
 どうです、この隙のない画面構成は!!
 まるで吸い込まれそうに鮮やかかつ深い色の夜空、そこに散りばめられた星々の眩しさ。森の木々はあくまで静かにもの思いに沈む二人を包み込み、そのひそやかな息遣いまで聞こえてきそうです。
 まっすぐに相手を想うがゆえに生じる、迷いやためらい。二人の表情は切なく、伏せがちの瞳は見るものに憂いを誘います。
 慣れない巫女装束に身をつつみ、更にその上から緋衣にくるまれたかごめはどこか頼りなげで、そのたおやかな四肢を抱く犬夜叉の長くて節高な手や体躯はあくまで力強く、かつ優しさに溢れていて。その対比が目を引くとともに、寄り添う二人の気持ちが一つになってゆくのが目に浮かぶようです。
 全体として情感豊かに仕上げられた一幕には、ただただ溜め息がこぼれるばかりです。これぞ美の極致。このような美麗絵が、あのヘタレ文を元にしたものなどと、誰が信じましょう。
 そして何より、小説であらわしたかった二人の混じりけのない想いが、絵から溢れてくるように思えてなりません。感動、としか云いようのない気持ちで心がいっぱいです。ああ、素敵…。



 それでは最後になりましたが、水沢さん、素敵なキリ番絵を本当にありがとうございました!!家宝として末永く大切にしたいと思います。
 そして若輩者ではございますが、どうか今後もよろしくお付き合い下さいませ。時に可愛らしく、時に美しい水沢さんの作品を、これからもずっと楽しみにしておりますvv