目を開くと、そこには色のない景色が広がっていた。その青く――もとい、白く澄んだ空はすっきりと高い。あたりは恐ろしいまでに静まり返っていて――ここには音もないのだ、と私はここでようやく気付いた。
 ――ここは一体どこなんだろう。
 今立っている場所には全く覚えがない。何も判らない以上は、へたに動かない方が良いだろう、と私は思った。もう少し、状況を把握してから。
 そこまで考えたところでくらりと眩暈がして、頭の芯が鈍く痺れた。車にでも酔ったかのような奇妙な感覚に私は眉をしかめ――

 おいで、という声を聞いた。

 慌ててあたりを見渡してみる。誰もいない。空耳だったのだろうかとも思ったが、そうではない。また同じ調子で、それが聞こえたのだ。おいで、と。
 高くもなく、さりとて低くもなく、ひたすらにいざない謳う声。行くべきだろうか。
 ――どこへ?
 心の中で問い掛けると、ふいにモノクロームの世界に淡く色が灯った。少しむこうに見える神社の鳥居、そのまんなかあたりからうすあかい光がこぼれて、小さく揺れている。
 私は足をそちらに向けた。現実味のない空間を一歩一歩踏みしめて進み、寸前で立ち止まる。おいで、と何度目かの声が呼んだ。
 ――さあ、連れて行って。
 一度だけ深く息をつき、私はゆっくりと鳥居の下をくぐりぬけた。