秘恋神楽【ひれんかぐら】
ぱちりと篝火【かがりび】、火の粉に爆ぜる。
いだく満月【もちづき】、常闇の天。
光源に濡れし、こぼるる観桜【はな】のあやけさよ。
誰よりも、そなたを愛している――
村の長【おさ】さま――何ぞと仰【おは】する。
天冠の金武【きん】、目奥【まなおく】を貫く。
細かにさざめく、髪飾【かみかざ】の揺るる。
うばだまの緑、髪のかかりのこの上もなし。
祝言を挙げ、夫婦【めおと】となってはくれまいか――
父君【ててき】、母刀自【ははとじ】――いとど胸潰【つぶ】るや。
表着【おもてぎ】に雪白、汚れを知らず。
濁りなき紅絹【もみ】、差袴【さばかま】が衣ずれて。
清らの巫女姫、想いのひどく狂おしく。
総てを捨てることになろうとて、何ひとつ惜しくはない――
お兄【あにい】、お姉【あねえ】――いかにか嘆かる。
ひゅるりり、ぴいぃ――笙【しょう】の音、笛に唄う。
とぉん、と鼓【つづみ】、軽鳴きをひとつ。
しゃあんしゃららら、和琴【わごん】の流るる。
神に逆えども、どうか我が許【もと】に――
坊に、ちい姫――声枯るるまで泣からむや。
至上の乙女、ひめやかに惑う。
馬手【めて】に鈴代、弓手【ゆんで】に扇。
ゆうわりと舞う、贄【にえ】の君。
あの方と、妾【わたくし】。二人、手に手をとりあい逃げ延びて――ともに生くる。
どこの娘とも判らぬ、この身。分け隔てなく育てられ、慈しまれた恩を胸に――神嫁【かむめ】にのぼる。
いずれに添はらば、いずれに背く。さて、往【ゆ】くべきは――。
永久【とこしえ】の定め、神の御前か。
果てなき旅路、夫【せ】の懐か。
これほどに、愛しているのに。
これほどに、愛されたのに。
お往きなされませ。
お往きなされませ。
――疾【と】く