夏宵
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
あまいともしび、こんのそら。
おはやしのねが、ひびきます。
こんやは、おまつり。
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
じんじゃのかたすみ、もりのそば。
ちいさなむすめが、かくれます。
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
しろいおべべに、あかのおび。
くろいおめめに、なみだをためて。
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
ひとりぼっちの、ちいさなむすめ。
もりがざわざわ、さわぎます。
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
そこには、いつからいたのやら、だれかがひとり、たってます。
むすめは、なくのをやめました。
ふしぎなかおで、たずねます。
「にいさま、だあれ?」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
あかいころもに、ぎんのかみ。
きんのまなこが、きらめきます。
「わかった、にいさま、おきつねさまね!おみみがあるし、だって、こんなにきれいだもの。」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
『きつね』は、そうっと、ききました。
「こわくは、ないか?」
「なあぜ?」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
『きつね』は、むすめをだきあげました。
ちいさなむすめは、わらいます。
「わあ!」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
「こよいはまつりだ。いかがした?」
「だれも、みにきてくれないの。はじめて、おかぐらまいにえらばれたのに。」
むすめのかおが、くもります。
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
『きつね』は、つづけてききました。
「ちちごや、ははごは?」
「とおさま、いない。おそらにいるの。じじさま、おやしろ。」
「ははごは、どうした?」
「あかさまの、ところ。かあさまなんか、だいきらい。」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
「なぜ?」
「かあさまいつも、あかさまばかり、かわいがる。」
「そうか」
「きっと、わたしが、かわいくないの。」
ちいさなむすめは、うつむきます。
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
「われが、すきか?」
「うん。おきつねさまは、とってもやさしい。」
『きつね』が、むすめのかみをなぜます。
むすめはうっとり、めをつむりました。
「ならば」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
「われとともに、くるがいい。」
『きつね』は、しずかにささやきます。
「いっしょに?」
「そうだ。ぬしを、けして、ひとりにしない。」
ちいさなむすめは、うなづきました。
「でも…」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
「でも、かあさまは?」
『きつね』は、なにもいいません。
「そんなの、いや。わたし、かえる!」
ちいさなむすめは、あばれます。
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん。
「なにゆえに?ははごは、きらいなのだろう?」
「いや、いや!かあさま、かあさま!」
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、か、
どどん、か、どん、か、どん…
ゆらゆら、やぐらのひがきえます。
あかいきんぎょは、しにました。
かわいいあのこも、もう、いない…?
「むすめを、かえして…」
ふるいほこらの、そのそばで、ちいさなむすめはみつかります。
ははごは、むすめを、だきしめました。
『きつね』は、ひとり、つぶやきます。
「じゅうねん、まとう。むすめがおとなになったなら、かならずわれが、つれていく。」
それはすずしい、なつよいの、よるにおこった、おはなしです。